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コラム16:合理的な思考

私が心理学を勉強していて感じることの1つに、人間の関わる物事について確実かつ強力な因果関係を確認するのは非常に難しいということがあります。工学の世界ならXはYに90%影響を与えているということもよくあるでしょうが、心理学が扱うような人間社会の出来事ではせいぜい2割とか3割といったところです。これは1つには関わっている要因があまりに多すぎるということがあります。Yに対してXが2割の影響力を持っていたとしても、合計で8割になる他の要因が無数にはたらいています。

 

「何年も浪人(または留年)をしたからいい会社に入れない」という命題を考えてみましょう。この命題のように思考が進んでしまうと、不安が高まって、就職活動は消極的になってしまうかもしれません。

 

この命題が正しいか誤りかを判断するためには、使われている言葉を明確に定義する必要があります。例えば「いい会社」が、できるだけ若い人を採用したいと思っている伝統的で保守的な会社を指しているなら、この命題はいくらかの正しさを持っているかもしれません(それでも他の要因は無数に影響しています)。「いい会社」が、年齢よりももっと別の何らかの採用基準を重視する会社を含むなら、この命題の正しさは限りなく0%に近くなります。この考え方の非科学的な部分の1つ目は「いい会社」というひどく曖昧で大雑把な言葉遣いをしているところです。自分にとって役に立つように、道理にかなった思考を進めたければ、もう少し具体的に緻密に考えてみる必要があります。

 

またこの命題は、根拠を明らかにしていないところに2つ目の問題があります。近年の医学や心理学ではエビデンス・ベイストな考え方が主流になっています。治療法や介入法を決定する時には、効果があるというエビデンスがはっきりしているものを選ぶという、ごく当たり前の考え方です。例えば「他の点ではまったく差がないとみなせる21歳の学生と23歳の学生数百名ずつの新卒就職先調査を数年度に亘っておこなった」というなら、かなり信頼できるエビデンスになります。一方「2留した知り合いが就職活動で苦労していた」とか「卒業が普通より遅いと就活が厳しいぞ、と先輩に言われた」などは、反証可能性があり過ぎて、ほとんど信頼できるエビデンスにはなり得ません。

 

3つ目の問題として「入れない」と断定口調であるところも問題です。人が関わることに100%などまずあり得ませんが、「入れない」という言い方はall or nothingの言い方になっています。例えば「20%くらいの会社で入社が難しくなるかもしれない」などの言い方の方が、予想としてはるかに科学的です(これは80%の会社では入社が難しくならないということです)。

 

エビデンスの信頼度を考慮せず、グラデーションであるものを二値化し、具体から離れた曖昧で大雑把な言葉を使って思考を進めれば、容易にとんでもない結論にたどりつくことがあります(悪徳商法の手口にも似ています)。先ほどの命題は、あと少しで「私の人生はもうダメだ」というところまで行き着きます。大学で学んでいる人間であるなら、単純思考に陥らずに、合理的で現実的な思考を進めて、前向きな生活に役立てていってほしいと思います。

 

(文章:石丸)

学習相談室