東京大学大学院法学政治学研究科・法学部

コラム43:自力を手放すということ

学習相談室

コラム43:自力を手放すということ

学習相談室で学生の皆さんと色々なお話をしていると、相談内容が多岐にわたっていることに驚かされます。そして、そうした相談のタイミングや、相談に来られるまでに悩みを解消しようとこれまでにされてきた行動にも気づかされました。法学部の学生の皆さんは、自力でさまざまな問題や悩みを解決してこられた方が多いような印象を受けました。ぶつかっている問題や悩みに対して真正面から向かっていき、問題や悩みは自力で克服“できるもの”であり、それは当然のことながら自力で克服“すべきもの”となってきたのではないでしょうか。努力しても何とかならないのであれば自分の努力が足りないからであると、さらに自分で自分を追い込み、プレッシャーをかけるような方法を取られている方も見受けられました。また、法学部に進学されてきた理由として、長年憧れてきた夢や理想の自分を強く持っている方にもお会いしました。夢や憧れというのはそれに向かう行動を起こすエネルギーになる一方で、現実の自分とのずれが強く意識されると不安や焦りで空回りしてしまったり、落ち込んで行動を起こすエネルギーが発揮されなくなってしまったり、ということもあります。

 

今年度開催された、鈴木重子さんのお話と対話の会の中で、鈴木さんが、今とは違う環境に自分を置いてみること、そうすることで自身が今の社会の中で身につけている条件付けを手放すことができるので、自分の心をもっとよく聴くことができるようになる、とお話しされていたのが印象に残っています。自分で自分を鼓舞することは、問題を乗り越える一つの方法ですが、そればかりに終始してしまうと苦しくなってしまいます。問題に真正面からぶつかっていくのではなく少し距離をおいて眺めてみる方法や、他の人なら現状をどんな風に捉えるのかを周りの人に聞いてみる方法など、レパートリーを増やしていくことも、結果的に自分自身の力になるでしょう。

 

自力でこれまで培ってきた自分をいったんでも手放してみるということは難しく、根気と時間の必要な作業であると思われます。学生の皆さんがそのような難しい作業に直面したときに、学習相談室という形で出来るだけのお手伝いをしていきたいと思います。

 

(文責:樋口)