東京大学大学院法学政治学研究科・法学部

コラム54:まじめすぎてしんどいときは…

学習相談室

コラム54:まじめすぎてしんどいときは…

涼しくて気持ちいい風が吹く近頃、キャンパス内を散歩するととてもいい気分になる。緑に溢れ、エネルギーに満ちているキャンパスの風景や太陽の光が日々強くなっていることを感じて、「あ、もう夏か」とふっと思う。

 

法学部の学習相談室に着任して3か月。学生相談を始めたばかりの新入カウンセラーとして受けた法学部生の初印象は、「まじめな学生が多い」ということであった。まじめに授業を受けたり、試験勉強をしたり、サークルやバイトに頑張ったり……あるいは、将来や進路について真剣に考えすぎて元気を失ってしまう学生もいる。そのまじめな姿が美しく、相談を受けに来た学生に逆に勇気をもらったり学びを得ることも多く、尊敬の念を持ったりもする。「自分も頑張らなきゃ」という良い刺激ももらっている。

 

「まじめ」という言葉が表す意味は色々あると思う。個人的にもまじめな人には好感を持つことが多く、社会的にも好ましい性格特性とされている。まじめな人は、仕事のみならず、目の前のことに真剣に取り組むことができる人が多い。まじめな人はまじめである故に、他人に安心感を与えてくれる。したがって、まじめな人は周りに期待され信頼されやすくもなる。人は周りの人や環境に反応して生きる動物である。他人の信頼や期待を感じると応えたくなる。まじめな人は周りの人が望むような行動を取りやすく、その期待に応えようと頑張りすぎて完璧主義に走ってしまう場合も少なくない。その頑張る姿勢やまじめな態度は他人の好感を呼び起こし、さらに大きな期待をさせてしまう。期待が高まる分、それに応えるためにはタスクの量もどんどん増えていく。結局、まじめな人はまじめすぎてしんどくなりがちである。

 

そもそも人が周りの期待に全て応えることは不可能である。全ての期待に応えようとするとどこかで無理をしなければならなくなる。勿論うまく行ったらそれが一番いいのだが、無理し続けてバランスを崩し、しんどくなってしまっては元も子もない。本人の自覚はなくてもからだやこころは気づいている。そして、様々な形でそのしんどさを訴える。憂鬱な気分、何をするにもおっくうに感じる、不安、焦り、眠れない、食欲がない、あるいは過食気味、学校に行きたくない、やる気が起こらない、頭痛、下痢、胃もたれなどなど……。例をあげたらきりがないくらいである。いずれもからだやこころが発信するSOSである。このような症状が続いたら、適応障害やうつ病をはじめ多様な精神疾患にかかるリスクも高まる。

 

それでは、周りの期待に応えようとするまじめな自分と、こころやからだのバランスをとるためにはどうすればいいのか。まずは、自分自身のこころの声に耳を傾けること。自分はどういう人なのか、何がやりたいのか、何が好きで何が嫌いなのか、いつ喜びを感じ、楽しみ、悲しみ、怒り、焦りなどの感情が発生するのか。自分の欲望に気づくこと。まじめすぎて、周りの期待や将来のこと、現在の目の前のやるべきことなど様々な考え事に埋没して自分を見失っていないのか。無理していないのか。一人で抱えすぎているのではないか。自分のからだやこころの声に目を向けてみる。そして、自分のからだやこころに最も必要なことを最優先に考えて行動する。考える余裕も余力もなく、どうすればよいかもよくわからなくなったら、誰かに助けを求める。それも一つの良い解決策である。そのための学習相談室である。

(文責:李 智慧)