研究教育体制

 当拠点では、ビジネスローの主要分野を各々、政府規制部門、市場取引部門、情報財(知的財産)部門の3部門に分けて実施します。
各部門は計画実施の核となるとともに、相互に密接な連絡を取り合うことになります。それぞれの部門の研究を実行するにあたっては、基礎的・理論的研究を重視する一方で、実際に当該ソフトローの生成・運用に関与している政府関係者・弁護士・企業関係者等との交流をも重視し、必要に応じて大学に招聘する予定です。 
 またさらに、ソフトロー研究のための方法論を確立すべく、法学以外の領域の研究者をも加えた分野横断的な研究会を各分野横断的に組織し、隣接諸科学の知見を取り入れた広い視野から理論研究を行います。
 これらの主な内容は下記の通りです。

政府規制部門
 政府規制部門においては、まず政府の行政機関が国内において行っているソフトロー的な手法による規制、たとえば認定基準・ガイドライン・ノーアクションレター等について、体系的な検討を進めます。さらに国際的に視野を広げると、本来は拘束力がないはずの各国規制当局同士の取り決めが、企業行動に大きな影響を与えている例が少なくありません。たとえば、租税の分野におけるOECDモデル租税条約コメンタリーの作成、有害な税の競争に関するOECD諸国の協調行動(タックスヘイブンへの対処)、競争法の分野におけるWTOやICN(国際独禁法ネットワーク)を舞台とした各国独禁当局の協調行動・情報交換はその例である。本部門では、以上のようなソフトローの多種多様な形成主体を調査した上で、その様々な発現形式や拘束力の強弱を理論的に整理分類する作業を行いつつ、国内・国際の双方におけるソフトローをめぐる膨大なデータを法分野別に可能な限り収集した上で、整理・研究してデータベースを構築し、後続の研究教育にとっての不可欠な基盤を提供します。

市場取引部門
 金融・資本市場の複雑化、企業間取引の高度化・IT化に伴い、商取引および消費者取引をハードローだけで律することは困難となっています。そこで、これらの取引に対する政府規制のソフトロー化だけでなく、金融・資本市場や業界団体において、自主的な規制規範を設けて各企業がそれに従い、政府機関もその充実に期待するという手法が多用されるようになってきています。同様に、国際的なルール形成に際しても、国家をハードロー的に拘束する条約の作成・批准という形ではなく、契約当事者が自発的に採用すべき統一規則を策定することによって国際的統一を図るというソフトロー的手法が次第にウェイトを増してきています。たとえば、UNCITRALの種々のモデル法はその典型例である。 本部門では、まず、このようにいわば企業・市場の側が作り出し提供するソフトローの実態を明らかにするための資料の収集・整理を行い、データベースを構築します。その上で、さまざまな分野でなぜソフトローが普及してきているか、このような現象は社会的に見て合理的か、またハードローによって提供される規範との相互関係はいかなるものであるのかということについて、経済学・社会学などの学際的な分析手法をも用いつつ解明し、基礎理論の構築を目指します。

情報財(知的財産)部門
 情報財を対象とする知的財産法の世界は激変しており、現実社会のおいては、業界における暗黙の了解・慣行・契約等によって、特許法や著作権法といったハードローに根拠をもたない「商品化権」や「タイプフェース権」のような事実上財が成立し、「権利ビジネス」なる巨大な怪物が十分な法的検討を受けないまま動いています。また、暗号等の技術が発展し、著作権法等に頼らなくとも財としての情報を保護することが可能となったために、契約による著作権法のオーバールールという現象が顕著になっています。本部門では、いくつかの研究会を立ち上げ、個々の契約書の内容や、業界の慣行等の実態調査をし、「権利ビジネス」、あるいは契約と知的財産権との関係がどのようなソフトローによって動いているのか、つまり現実の社会において情報財がどのような規範に従って機能しているのかという実態を把握し、その現実に動いているソフトローの構造を明らかにし、そこから情報分野におけるソフトローの将来像を解明します。

分野横断的研究会
 以上の3部門における研究・教育活動に加えて、ソフトロー研究のための方法論を確立すべく、法学以外の領域(たとえば経済学・経営学・社会学・心理学等)の研究者をも加えた研究会を各分野横断的に組織し、隣接諸科学の知見を取り入れて広い視野から理論研究を行います。また、欧米諸国、中国等のソフトローとの比較社会学的な研究も試みます。

研究教育組織概念図

研究教育組織概念図(チャート)


本拠点の活動参加者
 本拠点で日常的に研究・教育活動に参加する者として、事業推進担当者(本学の教員)、特任教員・特任研究員(学外からの参加者)があります。事業推進担当者は、上記の3部門のいずれかに属します。これに加えて、研究会・シンポジウム等では、ゲスト・スピーカー、報告者、討論者といった形で参加していただく方もいます。

事業推進担当者(2008年3月31日現在)

拠点リーダー 中山信弘 ビジネスロー・比較法政研究センター・知的財産法
政府規制部門 中里実(部門リーダー) 法学政治学研究科・租税法
五十嵐武士 法学政治学研究科・アメリカ政治外交史
碓井光明 法学政治学研究科・財政法
小寺彰 総合文化研究科・国際経済法
宇賀克也 法学政治学研究科・行政法
岩村正彦 法学政治学研究科・社会保障法
増井良啓 法学政治学研究科・租税法
白石忠志 法学政治学研究科・経済法
市場取引部門 神田秀樹(部門リーダー) 法学政治学研究科・商法
宮廻美明 ビジネスロー・比較法政研究センター・国際企業法
岩原紳作 法学政治学研究科・商法
山下友信 法学政治学研究科・商法
藤田友敬 法学政治学研究科・商法
神作裕之 法学政治学研究科・商法
松村敏弘 社会科学研究所・産業組織・公共経済
加毛明 法学政治学研究科・民法
情報財(知的財産)部門 中山信弘(部門リーダー) ビジネスロー・比較法政研究センター・知的財産法
ダニエル・フット 法学政治学研究科・法社会学
浅香吉幹 法学政治学研究科・英米法
大渕哲也 法学政治学研究科・知的財産法
荒木尚志 法学政治学研究科・労働法
森田宏樹 法学政治学研究科・民法

特任教員(2008年3月31日現在)

特任教授 渡辺裕泰 早稲田大学大学院ファイナンス研究科
  相澤英孝 一橋大学大学院国際企業戦略研究科
  柏木昇 中央大学大学院法務研究科
  道垣内正人 早稲田大学大学院法務研究科
  中島毅 日本銀行
   加藤公延 新成特許事務所
   瀬下博之 専修大学商学部
     
特任准教授 石川博康 学習院大学法学部
  加賀見一彰 東洋大学経済学部
  大久保直樹 学習院大学法学部
  山神清和 首都大学東京大学院社会科学研究科
  藤谷武史 北海道大学大学院法学研究科
  渡辺宏之 早稲田大学法学学術院
木村草太 首都大学東京都市教養学部法学系
松原有里 明治大学商学部
      
特任研究員 白崎宏一 トレードウィン株式会社
川副令 東京大学大学院法学政治学研究科
Julien Mouret Universite Montesquieu Bordeaux 4
萬澤陽子 立教大学法学部
三瀬朋子 武蔵大学社会学部
吉永圭 東京大学大学院法学政治学研究科
田中研午 東京証券取引所
岸本裕子 東京大学大学院法学政治学研究科
許淑娟 東京大学大学院法学政治学研究科
西村裕一 東京大学大学院法学政治学研究科