プログラムの趣旨

 1.事業目的

 本プログラムの目的は、本学大学院法学政治学研究科に、政治専攻を主体として、《政策システム》(政策の形成・決定・実施にインパクトを与える広義の政治システム)の創出を分析するシナジー・コアを形成することである。そのため、[1]《政策システム》の創出をフィールドとアクターの両面から比較分析し、静的である政策学を超えた動的な《政策システム》研究という政治学の新しい分野を構築すること、[2]それと関連する膨大な資料・データを収集・整理・保管・公開するデータ・ストアーを確立すること、[3]とくに軽視されてきた科学技術政策分野などのフィールドに焦点を当てて分析することなど、政治学の各分野を融合して得られるシナジー効果と、研究・教育間のシナジー効果を目指すことである。

 2.設立趣旨

 20世紀末以来、先進国は、グローバリゼーションの進展、新しいアクターの浮上(例:NPOの叢生)、インターネット、遺伝子組み換えなど新たな政策フィールドが登場し、大きな変化に見舞われており、各国では、その挑戦に応えるべく、さまざまな政策革新の実験が試みられきた。
 現在、それらの実験を通して明らかになりつつあるのは、政策革新の成否の鍵が個別の政策内容の改良だけではなく、分野横断的な《政策システム》のあり方自体にかかっていることである。それは現代の政治現象が、政治学の伝統的な分析対象であった政党・官僚制・圧力団体などの領域を超えて、国際政治と国内政治、政府と市場・社会、科学技術開発応用システムと政治的意思決定システムという、3つのインターフェースへと拡がりを見せているからでもあると言えよう。
 本拠点で扱う《政策システム》の研究は、このような問題状況を踏まえ、政治学とその関連諸分野が比較政治的観点から協働することでシナジーを発揮しながら、政治学研究の新たなフロンティアを拓くことを意図している。すなわち、拡がりを見せているフィールドにおける新たな政治のあり方を分析するとともに、政党、官僚制などの伝統的アクターを新たなコンテクストのなかで再措定を図ることを通して、《政策システム》のトータルな把握を行い、政治学研究の新たなフロンティアを切り拓く。

 3.特色と効果

 本拠点の研究の特色として、比較《政策システム》研究という革新、《政策システム》に関するデータ・ストアの構築、研究・教育の「シナジー効果」の3つの要素に凝縮されることを指摘できる。

 (1) 比較《政策システム》研究

 第1に設立趣旨にもある通り、最大の特徴は、「《政策システム》の創出」をフィールドとアクターの双方から比較分析して、《政策システム》研究という政治学の新しい分野を構築することにある。

 [1] ダイナミックな分析上の視点の導入:従来の研究と異なる点は、政策と政治システムを不断に連動するものとして捉え、新しい政策の創出を単なる政策の機能不全に対する改良としてではなく、《政策システム》の腐朽・創出という、ダイナミックなプロセスとして把握するアプローチであることである。

 [2] 新しいフィールドへの拡張:研究の対象として、国際政治と国内政治のインターフェースのような、新たに課題となっている政治現象のフィールドに重点を置く。さらに、科学技術政策、規制改革・政策評価、地方分権・都市政策など、その重要性にもかかわらず取り組みが遅れてきたフィールドにも注目する。

 [3] 政治学関連分野・隣接分野の「シナジー効果」:多様性を増す政策のフィールドと、それらを包摂する《政策システム》の解明には、政治学諸分野と隣接する学問分野との間におけるシナジー効果が不可欠である。具体的には、日本を含む先進国に対する理論的・実証的比較分析のために、政治理論・政治過程論・比較政治、歴史的先例の分析としての政治史学、国際政治とのインターフェース理解のための国際政治学が加わる。さらに、政策フィールドの新しい政治的実験の分析については、行政学、政策学の他、適宜関連する法律分野や工学的分野との協働も行う。

 (2) 《政策システム》のデータ・ストア構築

 第2に、《政策システム》に関連する膨大なデータを蓄積して、体系的な整理・補完、デジタル化を行うことで、世界にほとんど類例のない政策関連のデータ・ストアを構築する。
 データの例としては、まずNGO・国際組織など新たなアクターに関連する資料、地方分権など近年重要化している政策分野に関する資料を挙げることができる。また選挙関係の世論調査など、各種の調査を実施する。
 本プロジェクトで構築されたデータ・ストアは、学外に対しても積極的に公開する。それらのデータを国内外の研究者の利用に供することで、《政策システム》研究の普及に貢献する。

 (3) 研究・教育上の「シナジー効果」の追求

 第3に、本研究では、新たに拡張しつつある政策フィールドとその背景となる横断的《政策システム》のあり方を明らかにすべく、まず政治学の個別分野の垣根を越え、さらに法律学、工学など隣接諸学との協働を通じて、既存のアプローチの限界を克服するような研究上の「シナジー効果」の発揮を追求する。
 さらに、《政策システム》研究では、高度な水準の研究者を育成すべく、若手研究者を積極的に研究チームに参加させる。また各種セミナーの開催や大学院教育(法学政治学研究科法政専攻、公共政策大学院)を通じて、随時研究成果を若手研究者予備軍にも還元していく。このように、研究と教育の間の「シナジー効果」の獲得に向けて事業も推進する。