東京大学大学院法学政治学研究科・法学部 グローバル・リーダーシップ寄付講座(読売新聞社)



ごあいさつ

   グローバル・リーダーシップ寄付講座運営委員長
                        東京大学大学 教授 久保文明
     

Dr. Fumiaki Kubo, Chair
The Yomiuri Shimbun Global Leadership Studies
Professor, Graduate Schools for Law & Politics and Faculty of Law
The University of Tokyo

   本年度より、読売新聞社からのご寄付で開始されたグローバル・リーダーシップ寄付講座の運営委員長を、退職された北岡伸一教授より引き継ぐことになりました。本寄付講座は当初3年間の計画で始まり、すでに大きな成果を挙げたと理解していますが、現段階でまだ資金的に余裕があるため、もうしばらくの間当初の趣旨に添いながら事業を継続していきたいと考えています。

 日本の大学が国際社会で通用する指導者となる人材を社会に送り出す必要性は、ますます大きくなっているように思われます。東京大学はそれに応えるべく、交換留学制度の整備・拡充、英語の授業の拡大、秋入学への全面的移行などを検討していますが、本寄付講座におきましても、今後ともさまざまな形でその目的のために貢献していきたいと考えています。

 将来の進路が法曹界であれ、官界であれ、経済界であれ、あるいはジャーナリズムや学界であれ、これからはますます広い国際的な視野と見識をもつことが求められているように思われます。主たる学習内容が日本の法律であるという点で、本来的にかなり国内的で内向きの性格をもつ法律学ですら、ましてやより頻繁に国際社会と直接向き合わざるを得ない政治学において、学生のうちに、授業・講演・留学・インターンシップなどを通じて外の世界を知り、価値観の点でも社会の性格からいっても日本とは大きく異なる世界があることを知ることができれば、より広い視野と発想をもって社会に出ていくことが可能になるような気がします。それによって、一回りも二回りも広い視座を持った各界指導者に、そして市民になることができるのではないでしょうか。

 もとより本寄付講座でできることは限られてはいますが、学生の皆さんに、さらには一般市民の方々にも、それなりに刺激となるようなプログラムを残りの期間提供していきたいと思いますので、今後ともこれまで以上によろしくお願いいいたします。

2012年4月




【2009年4月 発足にあたって】

   政策研究院大学 教授  北岡伸一
   (前グローバル・リーダーシップ寄付講座運営委員長/前東京大学大学 教授)
    
About GLS Program(in English)
Dr. Shinichi Kitaoka, Formar Chair
The Yomiuri Shimbun Global Leadership Studies
Professor, National Graduate Institute for Policy Studies

 現在の国際社会は、世界各地の紛争、極度の貧困、テロリズム、地球温暖化などの課題を、国際社会全体にとっての課題とみなし、その解決に向けて様々な形で取り組みを強化しています。そこでのアクターは、依然として主権国家と国際機関が中心であり、それぞれの利害や視点が交錯する一方、NGO、企業、個人も重要な役割を果たすようになっています。これは、法学政治学の観点から見ても、きわめて興味深い展開です。

 ところで、日本はこうした分野に多くの人材を送り出しているとは言えません。かつて日本は国際連盟の事務次長に新渡戸稲造(1920−26)を、また常設国際司法裁判所長に安達峰一郎(1931−35)を送り出していましたが、当時に比べ、人材面の日本の貢献は必ずしも活発ではありません。とくに最近は、1990年代の国連において明石康、緒方貞子両氏が活躍されたころ比べ、停滞しているように思われます。

 その責任の一端は、大学にあるのかもしれません。学生諸君の間には、少なくとも潜在的には、世界の問題に強い関心があるにも関わらず、東京大学のみならず日本の多くの大学は、こうした関心に十分応えることが出来ていないというのが現状です。

 東京大学法学部・東京大学大学院法学政治学研究科は、読売新聞社の寄付によって、2009年4月1日から3年間の予定で、グローバル・リーダーシップ寄付講座(GLS: Global Leadership Studies)を設立しました。この講座は、将来、世界を舞台にしたグローバルな課題の解決にリーダーシップを発揮できる人材を養成することを念頭において、優れた実務家との連携によって、いくつかのコースを設置し、この分野における研究と教育を充実しようとするものです。

 もちろん、大学や大学院において何年か教育を受けるだけで、国際社会で活躍する能力が身につくわけではありません。しかし、大学時代に、世界が直面する深刻な問題について学び、広い視野と高い志を持つことは、必ずその人の将来に大きな意味を持つことと信じます。活動する場は、国連その他の国際機関や、あるいは日本の外務省その他の官庁、NGO、企業など、さまざまでありうると思います。

 以上のような観点から、私たちは多彩なプログラムを用意しています。演習と講義は、法学部、法学政治学研究科、公共政策大学院の諸君のためのものですが、その他のプログラムは、基本的に全学の学生、教職員、さらには学外の方にも公開されます。こうしたプログラムは、学生や聴講者の積極的な参加なしに成功するものではありません。世界を舞台に働く喜びと責任感を感じ取ってほしいと思います。奮って参加されることを強く希望しています。