東京大学大学院法学政治学研究科・法学部 グローバル・リーダーシップ寄付講座(読売新聞社)



読売グローバル・フェローシップ報告書(2010年度受賞者)

東京大学法科大学院修了生
              森 上 翔 太

  • インターンシップ受入機関:国際刑事裁判所 書記局
    インターンシップ期間   :2010年6月1日〜8月31日

    1. はじめに

    私は2010年6月1日から同年8月31日までの3ヶ月間にわたりInternational Criminal Court(国際刑事裁判所,「ICC」)書記局にてインターンをしました。本インターンにあたり、読売グローバル・フェローシップよりご支援を賜りましたことに対し、深く御礼申し上げます。

    2. インターン応募のきっかけ

    私は、法科大学院在学中から特に国際刑事法の分野に興味があったのですが、グローバル・リーダーシップ寄付講座・第2回公開セミナー「国際犯罪と戦う―国際社会における法の支配の強化―」に出席したことで、ICCのインターンを経験してみたいとの思いを強くしました。

    3. インターン先について

    ICCは、1998年に採択された条約(ローマ規程)に基づき、2003年、オランダのハーグに設置されました。その任務は、戦争犯罪・人道に対する罪・ジェノサイド(集団殺害)罪といった「重大な犯罪」を犯した個人につき裁判をすることです。現在は、ウガンダ、コンゴ民主共和国、中央アフリカ、スーダンの4つの国で起きた事件が係属しています。
    私が所属した書記局は裁判所における事務的な仕事をする機関です。具体的には人事や予算、裁判所内のITシステムの維持・管理など多岐にわたります。とりわけ重要な役割として、証人の保護が挙げられます。すなわち、ICCで扱われる事件は、大規模な紛争の過程で起きたものが多いのですが、そのような場合、ICCにて審理が進行している間も、被告人に味方する勢力がなお現地に残っています。したがって、被告人を有罪に導く証言をしようとする証人は、そうした勢力にとってターゲットになりやすいといえます。このため、ICCでは、証人のプライバシーを保護することで証人を特定できないようにするなどの措置が講じられています。

    4. インターン中の活動

    (1) 日々の仕事

    インターンには必ずスーパーバイザー(指導者)がつき、日々の仕事はこのスーパーバイザーによって与えられます。私の仕事は、裁判部によって出された決定や命令を要約しそれを他の職員に情報提供することから始まりました。その後、徐々にミーティングの資料をつくったり内部規則をつくったりする仕事も与えられました。いかに些細な仕事であっても、そこにはスーパーバイザーによる教育的な意図がこめられていました。

    (2) 他の活動

    ア. 他の国際裁判所の見学

    ハーグにはICCの他にも国際司法裁判所(ICJ)、旧ユーゴスラビア戦犯法廷(ICTY)、レバノン特別法廷(STL)、シエラレオネ特別法廷(SCSL)といった国際裁判所が存在します。私がハーグ滞在中に大きな反響を呼んだのは、シエラレオネ特別法廷にナオミ・キャンベル氏が証人として出廷したことです。あいにくその場に居合わせることはできませんでしたが、私のハーグ滞在中にこれらのすべての裁判所を見学することができました。

    イ. 他の職員とのインタビュー

    また、ICC内部の仕組みを把握するために、できるだけ多くの職員から話を聞くという活動も行いました。ICCの手続きには国内の刑事裁判と異なる点が多く分かりづらいため、こうしたインタビューを通じて得た知識はとても有益でした。

    5. 最後に

    ICCは日本のニュースで取り上げられることも少なく、まだまだ遠い世界のことのように思われがちです。しかし、実際に中に入って仕事をしてみると、そこには日々大小さまざまな進展を遂げているダイナミックな世界が広がっていることに気がつきました。日本人職員の数が比較的少ない点は他の国際機関と異ならないようですが、今後、より多くの方がICCに興味を持たれることを願っています。


                        
                 国際司法裁判所(ICJ)                  旧ユーゴスラビア戦犯法廷(ICTY)