東京大学大学院法学政治学研究科・法学部 グローバル・リーダーシップ寄付講座(読売新聞社)



読売グローバル・フェローシップ報告書

東京大学大学院法学政治学研究科 総合法政専攻 博士課程
              都 築 正 泰

  • インターンシップ受入機関:国際連合本部 政務局安保理部
    インターンシップ期間   :2009年6月1日〜7月31日

    私は,読売フェローシップのご支援により,2009年6月1日から7月31日までの2か月間,在ニューヨーク国連本部の政務局安保理部安保理官房課においてインターンとして研修する機会を得ました。安保理官房課におけるインターン業務を通じて,各種の安保理会合を体験するとともに,安保理の透明性及び効率性の向上における日本の貢献について考えを深める機会となりました。

    1. 政務局安保理部官房課

     インターン期間中,私が所属した安保理官房課は,政務局の安保理部内にある四つの課の一つです。政務局には,各地域情勢を扱う地域別部門とともに,安保理の活動を支援する安保理部があります。安保理部には,日常の安保理議事運営を補佐する@安保理官房課,過去の安保理の実行をまとめるA安保理実行・憲章調査課,安保理に設置された各制裁委員会の運営を補佐するB安保理下部機関課,そしてC軍事参謀委員会課の4つの課があります。

     安保理官房課は,ホースト・ハイトマン安保理部長及びノーマ・チャン課長の指揮の下,約20名で構成されています。課員のなかには,チャン課長をはじめ長年にわたって安保理の議事運営を支えてきた職員が複数いました。彼らの長年の経験と知見は,安保理の運営に不可欠なものと言えます。
     各安保理理事国から安保理官房課に対し,しばしば過去の安保理の議事運営の先例について照会があります。多くの場合,長年の経験を持つ課の幹部が即時的に回答していました。しかし,このような幹部も徐々に退職していくなか,彼らが長年蓄積した経験と知見を如何にして課内で広く共有することができるかが課題であり,このような問題意識が課内に根強くあります。こうした背景があり,私自身もインターンの業務として,課内に保存された過去の会合記録のデーターベース化を補助しました。なおその他には,各安保理会合終了後の報道振ら下がりにおける各国大使の発言概要を作成し,課内に配布する業務も行いました。

     各安保理理事国は,特に自国が安保理議長に就任するに際して,安保理官房課と連携を強化します。各理事国は,議長に就任する数ヶ月前から,自国の議長月の際の安保理作業日程を検討しますが,その時点から安保理官房課は議長国の意向を踏まえた作業日程とするべく,PKO局及び政務局他関係機関と事前に協議し,各会合におけるブリーファーの確保や事務総長報告の発出のタイミング等の調整を行います。また,議長月中は,安保理公開会合の際の議長の発言要領は安保理官房課が起案する等,議長国に対して全面的な支援を行います。
     安保理官房課の職務には,安保理理事国の補佐ともに,安保理の日々の活動を事務総長に対し報告することも含まれます。安保理の各会合,とりわけ非公式協議の議事概要を日単位で作成し,事務総長に提出します。ノート・テーカーは,安保理官房課の職員を中心としつつ,安保理部のその他の課の職員も当番制で担当していました。

    2. 507安保理作業方法ガイドブック

     インターンの期間中,私は許可される限り,ほとんどすべての安保理会合に出席しました。安保理の会合には,大きく分けて,公開会合と非公開会合の2種類があります。さらに,公開会合には,「公開討論」,「討論」,「ブリーフィング」,「採択」があり,また非公開会合には,「非公開討論」と「TCC会合」があり,細分化されています。そして,非公式協議,アーリア・フォーミュラ会合も事実上安保理会合の一形式として認識されています。正直に言って,インターン開始直後には会合の区分が理解できず苦労しました。
     その中,2006年に日本の国連代表部が作成した安保理作業方法ガイドブックが大変有用でした。インターン期間中,各種の安保理会合に出席した際には,このハンドブックの巻末にある会合形式の一覧表を活用しました。このガイドブックには,安保理の慣行を取りまとめた議長ノート(S/2006/507)を掲載されているとともに,巻末に図表を付して安保理の作業方法をわかりやすく説明されています。この一連の作業は,2006年当時,安保理非常任理事国であった日本が,安保理下部機関の文書手続作業部会の議長を務める中,主導して行ったものです。
     安保理の経験の少ない非常任理事国にとっても,会合の区分はなかなか困難であるようでした。ある非常任理事国の代表部員が懇談の席で私に述べたところ,507ハンドブックは「公共財」であると述べていました。また安保理官房課内で聞いたところ,2006年当時,507議長ノートがこれほど重宝されるとは思わなかった,近年,毎年11月に新安保理メンバーを対象に安保理の議事運営を説明するセミナーを開催する際,安保理作業方法ハンドブックを参考資料として使用しているとの説明がありました。

     2006年の安保理作業方法の改善における日本の努力は,安保理の透明性の向上,さらに非常任理事国の安保理の作業方法に対する理解を助け,結果として非常任理事国が主体的に安保理の運営に参加するよう促す意味において,安保理の効率性の向上に貢献しています。またこの点から507議長ノートは日本の国連外交における財産であると実感しました。

     現在も日本は安保理の非常任のメンバーとして安保理に参加しており,また文書手続作業部会の議長を務めています。507議長ノート及び安保理作業方法ハンドブックの付加価値を高めるべく,今後日本が精力的に活動することを期待したいと思います。特に,2006年以降,非公式対話(Informal Interactive Dialogue/Discussion)の活用,平和構築委員会(PBC)との連携強化,PKOミッション要員派遣国(TCC)との事前協議の促進等,新たに確立されつつある安保理の慣行を反映させるべく,507議長ノート及びハンドブックをアップデートしていくことが重要であると思います。またこれは日本だからこそ採れるイニシアティブであると思います。

    3. 結び

     今回の国連本部における2か月間のインターン経験を通じて,日々の安保理の議事運営における安保理官房課の役割,また安保理作業方法の改善における日本の努力の成果を確認することができました。今後,安保理の作業方法の変容という観点から安保理を研究していく際の研究の基礎となる経験であり,また将来,機会があれば実務の場で働く際にもこの経験を活用していく所存です。読売フェローシップに対し心より感謝申し上げます。  (了)