学術創成研究プロジェクト
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ボーダレス化時代における法システムの再構築

■研究会記録
通信・放送融合の深化と法制度        

報告者:鰹報通信総合研究所取締役 田川義博
ブロードバンド時代における放送の位置づけ:憲法論的視点から

報告者:東京大学大学院法学政治学研究科・教授 長谷部恭男 
論文集『メディアと制度』刊行予定

2001年8月20日

報告者:鰹報通信総合研究所取締役 田川義博

通信・放送融合の深化と法制度

  1. 送融合の深化

    これはいままでいわれてきた4局面のことだが、新種が登場してきた。

    (1)サービスの融合―融合@

    中間領域的サービスがますます多彩になってきた。サービスとしては、双方向データ放送のように通信・放送一体型のものが登場してきた。

    (2)伝送路の融合―融合A

    一つの伝送路を通信にも放送にも利用することをいう。最近の事象としては、電気通信役務を利用して放送を行うことを可能にする法(電気通信役務利用放送法)が成立した。法制度上の疑問は、従来の委託・受託放送事業者制度はCS放送ではなくなるのか、CS放送では周波数に放送用、通信用の区分はなくなるのかだ。私見だが、電気通信役務利用放送法のもとでも、実際のビジネスは、どこかのプラットフォーム事業者のビジネスに入らなければ、少なくとも放送はできないのではないか。

    • 通信の世界では、ハード・ソフトはもとから分離されているが、放送の世界では一体型になっている。これに対して、BSデジタル放送、CSデジタル放送の場合には、ハード・ソフト分離型になっている。
    • 電気通信設備利用放送法では、登録行為は必要であるが、設備を通信にも放送にも自由に転用できるようになっている。また、設備(ハード)については、電気通信設備であり、電気通信事業法が適用される。
    • 放送におけるハード・ソフト分離の諸類型(受託・委託にはっきり分かれるかという問題)
    1. 委託事業者の共同出資による受託事業会社の設立(共同所有タイプ)
    2. ハード事業者とソフト事業者の資本関係はないタイプでBBCの放送設備売却のケースのように、ハード事業者の設備はBBCのためにだけ利用されるタイプ(リースバック型)
    3. ハード事業者とソフト事業者の資本関係はないタイプで、事業者相互の契約でサービス提供が行われるタイプ(理想型)
    (3)事業体の融合―融合B

    注目すべき事例は、放送事業者がネット配信を積極化しつつあるということで、まだ事業として成立している融合の形態はあまりないが、熱心に行われている。

    (4)端末の融合―融合C

    モバイルを利用した融合サービスが予想される。

  2. 送融合局面の拡大

    (1)プラットフォーム・ビジネスの登場

    コンテンツ・ホルダーと伝送路ホルダー(通信事業者)の間をつなぐビジネス市場が拡大してきた(スカパーやB-CAS)。

    (2)プラットフォームの融合(1つのプラットフォームで放送も通信も行うこと)―融合D

    利用する通信サービスの提供も行っている。

    (3)コンテンツの融合―融合E>

    放送で利用されたコンテンツが通信ネットワークで再度利用されるようになる。

    (4)複合的・多層的融合

    例えば、スカパーが放送番組を通信系ネットワークを経由して、有料ストリーミングを配信する予定。PCまたはTVで受信する。事業者も端末も融合している。紛らわしいが、これは(2)とは異なる。(2)はCSは同じだが放送コンテンツは全く異なっている。一方はCSで、もう一方はデータ通信をCSを使って流す。放送用のSTBも受け入れる。伝送路、プラットフォーム、STBの融合も生じている。

    この段階では、ネットワークの融合、プラットフォームの融合、コンテンツの融合が全面化することになるため、産業的には、市場拡大、雇用創出、競争促進を図る観点から、通信、放送の2分法ではなく、ネットワーク、プラットフォーム、コンテンツの3区分法で法制度を再編成することが、自然な流れとなるのではないか。

    ところで、ここでは端末の融合を除いてある。一昨年くらいから気づいていたが、「端末」という言い方はネットワーク中心にみる言い方で用語に問題がある。利用者からみれば「端末」こそが中心。

  3. 送融合を超える融合事象

    (1)コンピュータと通信(伝送路)の融合・代替

    単体であるPCの内部で情報処理するより、通信ネットワークを介して情報処理した方が、安くなる現象が現れている。

    (2)ubiquitous computing, ubiquitous network環境の形成

    普遍的に存在するcomputing機能、network機能を利用して、情報の送受、情報処理が行われるようになってくる。その場合には、情報処理と通信の一体的な環境が形成される。利用者は、サービス、伝送路、端末(モバイル機器も含む)、プラットフォームを自由に選んで、情報の受発信、コミュニケーションを行う。この段階になれば、通信・放送の融合というよりは、コンピュータ機能を含めた通信・放送・コンピュータの融合が完成することになる。

  4. 通信事業者と放送事業者の法制度

    (1)法制度の比較

    レジュメの表は大雑把でありきたりのことなので適宜補足していただきたい。

    (2)通信事業者と放送事業者の責務の違いの考察

    通信の秘密、検閲の禁止は、通信サービスの利用者の受発信する通信内容に関して、通信事業者に課された責務である。利用者自身がその通信内容を公表しても通信の秘密侵害には該当しない。通信事業者にこの責務が課されるのは、預かったものを運んでいるだけで自らは処分権限がないからである。

    放送事業者のいわゆるコンテンツ責任は、社会的影響力の大きい表現行為者に対する責務であり、通信事業者の通信の秘密厳守という責務は、通信ネットワークという他人の情報、通信内容を伝送する責務である。通信でも、放送でも、ネットワーク・ビジネス全般に対する責務であると考えられる。

    さらに、ISP(Internet service provider)は通信サービスを提供する事業者であって、通信の秘密厳守を要する(eメールなどの)通信サービスを提供する一方で、「公然性を有する通信」に関わっているという意味で、表現行為者に「場」を提供している側面も有している。

    したがって、法的には、通信の秘密厳守が求められる一方で、表現行為者が発信・提供する違法・有害情報に関する表現行為に対して規制が行われる場合には、ISPに対して、コンテンツについても責任(義務)または、権利を行使することを求める法制度も考えられる。通信の秘密厳守が求められる「通信」と「公然性を有する通信」といわれるような「通信」とでは、ISPの責任は異なってくるが、その区分を厳格に守らなければ、法の実効性確保の観点から問題を残すことになる。

  5. 通信・放送融合の深化・拡大をふまえた法制度・政策の方向性

    (1)大きな流れ

    全部の融合、多層的な融合が進むので、まさに通信・放送融合が実現する。情報を主体的に発信したり、選び取ったり、それを自由にネットワークを選んで、伝え、送る世界が実現される。

    (2)制度改革の方向性

    いつもいわれていることだが、議論のレベルとして、ネットワーク・プラットフォーム・コンテンツの3つに切ってしまうほうがよい。

    ネットワークのサービスはすべて電気通信事業法で規律する。プラットフォームは共通化する。コンテンツは一般法で対処するが、多くの人が視聴している放送(現在の地上放送)には、上乗せのコンテンツ規律を当面残す。

    その合理性の整理は必要であるが、この点よくわからないのは、ハードとソフトを分離する必要があるのかで、先にも述べたように、単に一対一ならあまりメリットはない。利用者を対象とした問題として、ユニバーサルサービスやデジタルデバイドの問題は解決可能。

    (3)検討を要すると考えられる法制度上の課題

    思いつくものを2つ挙げる。

    @放送におけるハード・ソフトの分離の意味合いの評価(いわゆるBBCの垂直統合の話)

    ハード・ソフトの分離が行われたとしても、ハード事業者が特定のソフト事業者に一対一で対応してしまえば、経済的な効率性はそれほどあがらない。目指すは、ネットワークの融合がハードとソフトの分離で生まれることである。放送事業者から見ると、ハード・ソフトを分離した場合に、自分のコンテンツを伝送するパイプがないというリスクが生ずる。一方、放送専用に作られた設備だとすると、ハード事業者の方は、運ぶべきコンテンツがなくなるというリスクが生ずる。

    A差別的取扱いのリスク

    コンテンツ、プラットフォーム、ネットワーク、端末(ここではPCを意識)のうち複数分野を業務範囲とする事業者が、自己のビジネスを有利にするために以下のような行動を取る可能性がある。

    1. 自己のコンテンツを自分のネットワークに排他的に、もしくは、優先的に配信する。
    2. ネットワーク事業者が、自己のコントロール下にあるコンテンツを排他的に、もしくは、優先的に自己のネットワークに配信する。
    3. PCなど端末のビジネスを行う事業者が、コンテンツやプラットフォーム事業などで、自己のビジネスを排他的にまたは他に優先して扱う。

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2002年2月22日



報告者:東京大学大学院法学政治学研究科・教授
      長谷部恭男

ブロードバンド時代の放送の位置づけ:憲法論的視点から


1.従来の「放送」の理念型
番組内容&地理上のuniversality → 総合編成、政治的公平、論点の多角的解明
「無料」(視聴者から対価を徴収しない)→ 公共財、限界費用、公共放送の併存
Outletの数の限定 → 番組の質の維持(規模の経済、「カルテル」の執行)

役割:社会生活の基本となる情報を社会全体に、公平に、低コストで提供
→ 情報格差の縮減、民主政治を支える公共空間の形成と再生産
規律:主要な情報源を少数のマスメディアが掌握(ボトルネック)
→ 部分規制(希少性論や影響力論は具体的執行の目安)

2.今後の放送の姿
Outletの数と量の拡大
視聴者の選択(filteringを含む)能力の拡大

2.1第一のシナリオ
視聴行動の極端な分散&ボトルネックの消滅
→ 番組内容のuniversalityの消滅
番組の質の低下
group polarisationの進行
→ 基本的情報の公平な提供&公共的な審議空間の維持という役割は消滅
周波数帯管理を含め規律の必要はもはやない
文化的一体感も、熟議民主政の可能性も失われる

2.2第二のシナリオ
ソフト、ハード両面で規模の経済は存続
同業種・異業種間での事業統合の進行
視聴者の側の情報費用と慣性
→ 従来の「放送」の理念型に相当するサービスは存続
情報のボトルネックが存続する限りで規律の必要性(と可能性)も残る
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論文集『メディアと制度』

情報分野における技術・産業の発展は、放送の通信の融合、多メディア化、大容量化、グローバル化等、従来の法制度との不整合をおこしかねないさまざまな現象をもたらしている。たとえば、放送と通信の融合は、情報産業における放送と通信との制度的区分の意義を揺るがすものであるし、インターネットの発展等が必然的にもたらす情報規制の国際化は,各国ごとの規制の意義を問い直すことになる。

こうした法制度に対する挑戦は、従来の制度の前提となっていたさまざまな想定を改めて確認し、それが今後もなお妥当するか、妥当しないとすれば、制度の在り方をどのように変更することが可能であり、その可能性のうちいずれが望ましいものかを多角的視野から検討することを要求する。本巻では、これらの諸現象に対する制度的対応の在り方をめぐる、民事法、刑事法、公法学、社会学等の各分野の専門家の知見と批判的分析を示す。

以下は、想定される本巻の構成である。


T 日本社会の情報化と透明性

1。日本社会の透明性−アメリカとの比較で      ダニエル・フット
2。情報化の進展と取引法制の変容           森田宏樹
3。個人情報法制(あるいは情報公開法制)の課題  宇賀克也
4。刑事法から見た情報法制の課題           佐伯仁志

U メディア規制の諸相
5。メディア・リテラシー研究から見た情報法制     水越伸
6。青少年保護とメディアの規制             後藤弘子
7。インターネット上の自由と規制            山口いつ子
8。公共放送の役割と制度                宍戸常寿
9。グローバル化時代における通信法制      長谷部恭男

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