第17回東京大学ホームカミングデイ 法学部企画開催
2018/10/24
10月20日(土)、「第17回東京大学ホームカミングデイ」が開催されました。当日は秋晴れに恵まれ、本郷キャンパスには多くの卒業生やそのご家族が集まり、大いに賑わいました。
法学部では、午後1時から4時20分頃まで、法文1号館22番教室において講演会を開催し、講演1では約70名、講演2では約60名の方々にご来場いただきました。
まず、岩村正彦学部長の挨拶では、現在の法学部の状況に関する説明等が行われました。
続いて行われた講演1「史料から考える近代日本の政治—-明治新聞雑誌文庫の世界」では、北岡伸一名誉教授と佐藤信助教よりご講演いただいた後、苅部直教授司会による鼎談が行われました。
北岡名誉教授による講演は、大正デモクラシーでも名高い吉野作造名誉教授が『明治文化全集』を編纂したことが明治新聞雑誌文庫の由来であることに触れたうえで、明治における新聞メディアが自由民権運動とともに一気に花開いたこと、第一次大戦以後、商業主義の色合いを強めた新聞が戦争と結びついたことが紹介されました。いっぽう、北岡名誉教授が日本外交の最前線でも活躍した経験も踏まえて、歴史を発掘するうえで新聞・雑誌と相補い合う公文書や政治家の書簡の重要性も説かれました。とりわけ、公文書は説明責任を果たすための「自己防衛のための文書保存」であること、電話が出現する以前の時代における政治家の書簡は、相手を説得しようという気迫と論理性に満ちていたことなどが説明されました。
佐藤信助教による講演では、まず現代における歴史研究と史料との関係について、デジタル化(検索可能性向上)によって氾濫といって良い状況にあることが説明されました。そのうえで、明治新聞雑誌文庫所蔵資料の世界に講演会参加者を誘うための一例として、国会議事堂建設をめぐる様々な政治的言説が紹介されました。現存する国会議事堂は昭和の短期間に立案・建設されたものではなく、設計過程では衆議院と貴族院の縄張り争いの対象となったこと、お雇い外国人ではなく日本人に設計させることを求めるナショナリズム的な意見があったことなどが紹介されました。最後に、史料の世界では今後さらにデジタル化が進む中、その推進度が大学の体力を示すバロメータとなってゆくことが示唆されました。
その後、苅部教授を交えた鼎談では、会場からの質問用紙への回答も含めて、丁々発止のやりとりがなされ、史料を読む楽しさ・奥深さへと来場者を誘いつつ、明治新聞雑誌文庫の重要性を改めてアピールするものとなりました。
小原雅博教授による講演2「国益とは何か?」は、近著『日本の国益』を踏まえて、来場者にも分かりやすく外交という営為の本質を説き、目下の国際情勢を読み解くヒントを提供するものでした。まず、外交の目的を理解するうえで欠かせないモーゲンソーの古典的定義を踏まえて、国際関係に緊張を及ぼす現状変更国家の特徴が説明されました。そのうえで、現状変更国家の例として、北朝鮮および習近平中国への視点が論じられました。とりわけ、習近平中国と米国の急速な対立激化は、民生と軍事の境界線の曖昧な発展戦略「中国製造2025」を掲げる中国に対し、米国が修正主義勢力と見なした結果であることが説明されました。最後に日本外交の課題として、国際協調こそ日本の国益を実現する手段であることが示唆されました。
小原教授の講演終了後には参加者から鋭い質問も寄せられたほか、講演中の折々において、来場者が真剣な表情で聞き入るなど、現代世界を考える知的緊張感にあふれる内容となりました。
ホームカミングデイにおける法学部企画は、卒業生の方々やその他一般の方々に「法学部の今」を間近に見ていただき、理解していただくことで、法学部のさらなる発展や活性化につなげていこうとするものであり、今年度の企画はこのような意味で充実したものとなりました。来年度も法学部らしい企画を用意する所存ですので、多くの皆様の参加を心よりお待ちしております。