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コラム26:進路選択の難しさ

大学卒業後の進路を決めるのは難しい。何しろ一生の問題である。少なくともそんな気がするものである。だから、何としても、間違った選択だけはしたくない。ところが、困ったことに、進路の選択においては、客観的に「正しい答」というものが存在しない。仮に「正しい答」があるとしても、それがわかるのは、決定時点ではなく、はるか後になってからのことにすぎない。試験には強い東大生も、進路選択においては悩みに悩み、迷いに迷うのはそのためである。

 

脚本家の山田太一氏は早稲田大学教育学部の4年生の時、教師になろうと思っていたのに、教員採用試験の日を間違えてしまい、就職が決まらないまま卒業が近づいてきたので、就職課に「どこでもいいから、今度の日曜に入社試験のある会社はありませんか?」と訊きに行き、そこで紹介された松竹映画大船撮影所の試験に合格してようやく就職が決まったという。松竹大船では木下恵介監督の下で助監督につき、その後、木下監督の口利きでテレビやラジオのドラマの脚本の仕事をするようになり、脚本家に転身することになったのである。したがって、山田氏が教員採用試験の日を間違えず、教師になっていたら、「男たちの旅路」や「早春スケッチブック」「ふぞろいの林檎たち」といった日本のテレビドラマ史上に残る傑作は生まれていなかったことになる。そう考えると、人生において、何がプラスで何がマイナスになるかは、ずっと後になってみないとわからないものである。

 

しかし、そうはいっても、進路選択の迷いの渦中にある学生にとっては、やはり間違った選択はしたくない、と思うのは自然なことである。そこで多くの学生が採る戦略は、他の人々の意見を聞き、自分の周囲の学生がどのようにして進路を決定しているのかを探ることである。それはもちろん悪いことではない。しかし、たいていの場合、それは進路選択の決め手にはならない。人によって意見は違うし、他人の進路決定方法もまちまちだからである。しかしなかには、友人の多くが法曹を目指しているから、なんとなく自分も目指すといった感じで、周囲の流れに身を任せるようにして決めてしまう学生もいる。しかしこのような主体性に欠ける決定は極めて不安定なものであり、ひとたび自分に適性があるのか疑問がわくと、やはりこの進路でいいのかと迷いが出てくるようである。また、進路の決定に際しては、親の期待を裏切ってはいけないという重圧を感じている学生も多く、そのため、親の期待する進路を自ら選択したように思い込んでしまっているケースも見受けられる。また、親が明示的に期待を口にしなくても、周囲の人々(親、友人、世間)の評価が高い進路を選ぶことが「正しい選択」であるかのように思い込んでしまう傾向も見られる。難関の受験を突破してきた東大生には特に、「難しいことはいいことだ」「世間の評価が高いものはいいものだ」と考える傾向があるように思われる。

 

だが、このようにして決めた進路は、自分本来の欲求とは合致しないことも多く、そのような場合には心理的・身体的に苦しむこともある。山田太一氏はあるインタビューで、「人生の岐路みたいなときも、激しく悩んで選んでいくっていうのではなく、耳を澄まして、体が自然に動いた方に進んでいきたい、という感じがするんです」と語っている。そして、自分の限界を意識することによって、本来は断念すべきものを追いかけてしまうことを避けることができ、自分のできることに焦点を当てることで可能性が開けてくる、と述べている。ここには進路選択に悩む人にとって重要なヒントが示唆されているように思う。

 

(文責:稲田)

学習相談室