大学生時代は、高校から大学、大学からまた次の進路へと、キャリアの節目を次々と迎える時期です。それに加え、勉学、学外活動、友人関係など、多種多様な課題もあり、大変忙しい時期でもあります。そうした状況にあっても自分の進む道を見失わないためは、自分の大切にしている価値観を自ら見つけ、時折それを確認しながら進むことが重要となります。
その手掛かりになるのが、「キャリアアンカー」(Carrer anchor)という考え方です。アメリカの組織心理学者エドガー・シャインは、その人がどこでどのような仕事をしようと、「どうしてもこれだけは犠牲にしたくない」と思うほど大切にしているものをキャリアアンカーと呼びました[1]。以下、キャリアアンカーを8つに分類したものを挙げましたので[2]、見てみてください。ご自身に合うものは見つかりますでしょうか?
- 専門・職種別コンピテンス(Technical/Functional Competence)
→自分の専門性や技術が高まること
- 全般管理コンピテンス(General Managerial Competence)
→組織の中で責任ある役割を担うこと
- 自律と独立(Autonomy/Independence)
→自分で独立すること
- 保障、安定(Security/Stability)
→安定的に1つの組織に属すること
- 起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity)
→クリエイティブに新しいことを生み出すこと
- 奉仕・社会献身(Service/Dedication to a Cause)
→社会を良くしたり他人に奉仕したりすること
- 純粋な挑戦(Pure Challenge)
→解決困難な問題に挑戦すること
- 生活様式(Lifestyle)
→個人的な欲求と、家族と、仕事とのバランス調整をすること
いかがでしたか? 1つに強くあてはまることもあるし、複数の項目にあてはまることもあるかと思います。
ちなみに、マサチューセッツ工科大学にてシャインの下で博士号を取得した金井壽宏氏によれば、彼のキャリアアンカーはかつて③自律と独立であったが、40代になって産業界とコラボする研究プロジェクトにかかわるようになってから⑥奉仕・社会献身に変化していったそう。ただ、これをシャインに報告したところ、シャインは、「それはキャリアアンカーが変わったのではなく本当の自分に気付いたのだ」という解釈だったようです[1]。もしかしたら、「これが私の真のキャリアアンカーだ!」という最終地点に至ることはないのかもしれません。
このように、キャリアアンカー、あるいは自分の価値観は、わかりやすいようで実はわかりにくいものです。自分の顔を鏡なしでは見ることはできないように、自分の価値観を自分で見つめるのは至難の業なのです。
そこで、自分の価値観を多角的に見つめるために、誰かと対話してみることは助けになります。話し相手を鏡にして自分を見る機会にすれば、より客観的に自分を振り返ることができます。ご家族、友人、先生、先輩後輩など、身の回りの人とのコミュニケーションをそうした視点で見てみるのもいいかもしれません。
なお、学習相談室では、学習や心理に関することのみならず、このような進路・キャリアに関する相談も承っています。忙しい大学時代を乗り越えるために、誰かの力を借りたい、一味違う「鏡」が欲しい、と思ったら、是非ご利用くださいね。
[1] 金井 壽宏(2010). キャリアの学説と学説のキャリア, 日本労働研究雑誌, 52 (10), 4-15.
[2] 労働政策研究・研修機構(2016). 職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査, JILPT資料シリーズNo.165, p.72
(文責:大橋)