東京大学大学院法学政治学研究科・法学部

コラム25:アイデンティティと進路

学習相談室

コラム25:アイデンティティと進路

秋になって涼しくなり、過ごしやすい季節になりました。このくらいの過ごしやすい時期が少しでも長く続いてくれるよう祈るばかりです。

 

さて、いよいよ冬学期の始まりですね。この冬から春にかけては就職活動や公務員試験の勉強で忙しくなる予定の方も多いことでしょう。

 

学習相談室に寄せられる相談の中でも頻度の高いものの一つとして、進路の相談があります。「どのような進路を選べば良いのだろうか?」「どのような職業に就くのが自分に向いているのだろうか?」「今の進路でやっていけるのだろうか?」などなど悩まれる方も多いと思います。このような疑問に関連して、心理学者のエリクソンは「アイデンティティ」という概念を提唱しています。これは「自分が何者であり、何をなすべきか」ということに関する概念で、特に青年期の発達課題としてよく挙げられるものです。その意味で、この時期に進路について悩むことは決しておかしなことではありません。実際にこの「アイデンティティ」という概念は、エリクソン自身の悩みから生み出されたとされています。私自身の体験から言っても、この時期に自分のこれまでのあり方について十分に時間をかけて問い直し、改めて進路の意思決定を行うことは、自分の今後人生を考える上でとても大切なことであると思います。もっとも、アイデンティティは青年期において完全に確立されなければならないということはありません。このアイデンティティというのは、そのような固定的なものではなく、もっと流動的なもので、青年期に重要でありながら、成人期、中年期、老年期といったその後の発達段階においても何度も繰り返して再構築されると言われています。

 

ただ、青年期に初めて自分のアイデンティティに関わる問題に直面することが多いということもあって、このアイデンティティの確立は青年期において特に重要な問題とされています。その中でどのようにアイデンティティを確立させていけば良いのか?・・・こう考えるととても難しくなりますね。実際「自分は何者なのだろうか?」ということから悩むより、まずは自分の進路について具体的なことから考え始めることをおすすめします。なかには進路について考えるのだけど漠然となにをしていいのかわからないという人もいるでしょう。そのような人は、進路を色々探す前に、色々な事柄について、自分の中での優先順位をつけ、ライフプランを描いてみてはいかがでしょう。あなたがこれから生きるにあたって、譲れないものはなんでしょうか?「お金」という人もいるでしょうし、「家族」という人もいるでしょう。あるいは「居住地」や「趣味」、「人間関係」という人もいるかもしれません。優先順位をつけ終わったら、その実現のために、具体的な進路を考えてみると良いでしょう。先に進路のほうを見るのではなく、自分の優先順位をあらかじめ決めておくのがミソです。ぜひやってみてください。

 

学習相談室は進路の悩みから勉強、あるいは日常生活上の悩みに至るまで幅広い相談を受け付けています。1人で抱え込む前に、一度学習相談室にお立ち寄りください。

 

(文責:菅沼)