東京大学大学院法学政治学研究科・法学部

コラム45:マイナスのレッテル貼りはやめよう

学習相談室

コラム45:マイナスのレッテル貼りはやめよう

中学のとき、「犬猿の仲」と言ってよいほど、何かにつけていがみ合い、対立していたクラスメートがいた。ところがあるとき、このクラスメートと私が同じ漫画の大ファンであることがわかり、その漫画について話をするうち、意気投合し、一転して大の親友になってしまったことがある。一体なぜ、私は彼のことをあれほど嫌っていたのかと言えば、おそらく何かささいなことから彼に「嫌な奴」だというレッテルを貼ってしまっていたからとしか考えられない。ところがレッテルという色眼鏡を外して見てみると、次々に彼の良い点が見えてきたのだ。

 

このようなことは他の分野、例えば、勉強についても言えるようである。脳低温療法の開発者として有名な脳神経外科医・林成之氏によると、目から入った情報は大脳皮質神経細胞が認識し、「A10神経群」と呼ばれる部分を通ったあと、前頭前野に入り、ここで情報を理解・判断するそうである。では、「A10神経群」は何をしているのかというと、なんと、入ってきた情報に「面白い」とか「つまらない」といった感情のレッテル貼りをしているそうである。ここでA10神経群が「これは面白い」というレッテルをつけると、脳のパフォーマンスが向上し、その後の理解や思考や記憶が良くなるのに対して、「つまらない」といったマイナスのレッテルを貼ると脳のパフォーマンスが落ち、しっかり理解できず、思考が深まらず、記憶もしにくくなるというのである。楽しいと感じてやっていることには脳は疲れを感じないが、「つまらない」「嫌だ」と感じながらやると脳は疲れを感じるのも、A10神経群が脳の疲労を除去する中枢とつながっているからである。

 

もちろん私たちは、興味がないことはなるべく避けたいと思うし、嫌いな科目は教科書を読んでもなかなか頭に入ってこない、といったことは、日常的な経験として知ってはいるが、その背後にはこうした脳のメカニズムが存在していたのである。

 

では、こうしたメカニズムがわかれば、そこから何が言えるだろうか。理解力や思考力、記憶力のパフォーマンスが最初の「感情のレッテル」によって左右されるのなら、理解力・思考力・記憶力を高めるためには、まず、「面白い」「好きだ」というレッテルを貼ることが重要だということだ。

 

「そんなことを言われても、嫌いなものは嫌いだ」とあなたは言うかもしれない。が、最初に挙げたエピソードを思い出して欲しい。実は「嫌いだ」というレッテル貼り自体が偏見や固定観念に基づくものである可能性も高い。それに、勉強というものは、理解が進めば進むほど、面白くなるという特性があるのに、理解が進まない段階で「嫌いだ」というレッテルを貼ってしまうと、自らそれ以上進歩することを拒否しているようなものだ。「嫌いだ」と思っているのは、まだその学問の面白さを知らない自分の偏見にすぎないのではないかと疑い、「好きになる努力」をしてみることが大切だ。もちろん、時間はかかるだろう。今はわからないことも、いつかは必ずわかるようになるはずだという希望を捨てないことも大事である。

 

(文責:稲田)