東京大学大学院法学政治学研究科・法学部

(コラム56)新型コロナウイルス流行時におけるこころのケア Part1

学習相談室

新型コロナウイルス流行時におけるこころのケア Part1

学習相談室 心理カウンセラー・谷 真美華

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、東京都で緊急事態宣言が発令されてから2週間が経ちました。しかしながら、感染が収束する気配はいまだなく、緊急事態宣言が全国に拡大されるなど、油断の出来ない状況が続いています。東大でも、様々な活動が制限されたり、授業がオンラインに切り替えられたりと、イレギュラーな対応が多くなっていることに加え、バイト先の休業や各種試験等の延期、GWの帰省が難しくなったこともあり、皆さんの中には大きなストレスを抱えている方も多いのではないでしょうか。

このような先の見えないストレスフルな状況においては、誰でも心身に不調をきたしやすくなります。そこで、今回から数回にわたって、新型コロナウイルスの流行時におけるこころの健康とそのケアについて、皆さんにいくつかお伝えしたいと思います。

今回のテーマは、ストレスフルな状況下で起こり得る心理的反応と、ストレスに対する簡単な対処法です。

 

[ストレスフルな状況において起こり得るこころの反応]

〇今回のような普段とは異なる危機的な状況下において、以下のような心理的反応が起こる可能性があります。

> 病気になることや死ぬことへの恐怖

  •  > 感染させるのではないかという不安
  •  > 学業や将来に関する不安
  •  > 普段通りの生活を送れないことに対する不安
  •  > 親や自分の収入減に伴う経済的不安
  •  > 隔離によって生じる無力感、悲しみや落ち込み
  •  > 自宅で過ごす時間が長くなることによる孤独感、倦怠感
  •  > 主体性や自由が失われること、過度の我慢を強いられることに対する怒り
  •  > 従来のサポートやケアが得られなくなることによる精神的苦痛
  •  > 病気を疑われて、社会的に除外されることへの恐れ
  •  > 大切な人を守れないのではないのかという無力感や、感染症のために大切な人を失うのではないかという恐れ

 

*特に、新型コロナウイルスはまだ明らかになっていないことが多いことや、感染したかどうかが不確実であること、ワクチンや治療薬が開発中であること、外出自粛が要請されていること等から、不安な気持ちは大きくなりやすいと考えられます。

 

こうした反応は人間にとって自然な反応ですので、自分の弱さのせいだと自らを責めたり、早く回復しなければと焦ったりする必要はありません。また、心理的な反応のあらわれ方やタイミング、強度は人によって異なり、心理的反応ではなく身体的反応として強くあらわれる人もいます。自分では自覚していなくても、少なからずストレスを感じていると考えられるので、いつも以上に健康管理には注意をしましょう

 

[ストレスに対する簡単な対処法]

〇既に感じている、あるいは、これから起こり得るストレスに対処するための方法としては以下が挙げられます。

  •   > 適切な食事、睡眠、運動など、可能な限り健康な生活習慣を維持すること
  •   > これまでに行っていたルーティンを可能な範囲で続けてみること
  •   > 友人・家族など、親しい人や信頼できる人と連絡をとること(電話やメール、SNSなど)
  •   > 動揺したり気持ちが昂ったりしやすくなるため、SNSやニュース等で過度に多くの情報に接することは控えること(1日に見る時間や回数を決める等の工夫)
  •   > 具体的な目的や達成感が伴う活動や、楽しさや安心が感じられる活動に取り組むこと(音楽を聴く、動画を見る、読書をする、家事をこなすなど)
  •   > セルフケアのためのウェブサイトやアプリを活用すること(「マインドフルネス」、「呼吸」、「思考記録」などのキーワード)
  •   > これまでに経験したつらい時期に用いた、感情のコントロールのやり方を思い出し、試してみること

 

*自分の気持ちに対処するために、たばこやアルコール、あるいは違法な薬物を使用することはやめましょう。

 

ひとりではどうにもならない場合には、周りの信頼できる人や専門家に相談しましょう。東大でも、状況に応じた制約下ではありますが、保健センターや各相談機関で様々な相談に対応しています。もちろん、学習相談室でも相談を受け付けていますので、こちらのページ(https://www.j.u-tokyo.ac.jp/adviser/about/)からご連絡いただければと思います

 

 

[社会に起こり得る影響について]

〇上記のような絶え間なく続く恐怖や懸念、不確実さなどの様々な要因によって、社会には以下のような(長期的な)影響が残る可能性もあります。

  •   > 社会のネットワークや地方の活力、経済活動が損なわれたり、悪化したりすること
  •   > 国や地方自治体、医療関係者等の最前線の就労者に対して、より感情をぶつけたり、怒りや攻撃が向けられたりする可能性
  •   > 子どもや配偶者、パートナー、他の家族に対して怒りや攻撃が向けられる可能性
  •   > 国や自治体、その他の公的機関が発する情報に対する不信感
  •   > 医療施設を避けたり、受診できなくなったりすることで、メンタルヘルス上の問題や物質使用障害を抱えた人が再発やその他の問題を経験してしまうこと

 

(すでに発生しているとも考えられますが、)このような影響が起こり得ることを念頭に、自分自身を大切にすることを優先しつつ、他者への気遣いも忘れずに、周りや社会とのつながりを保つように心掛けましょう

 

 

今回のような未知の感染症拡大という非常事態にあたっては、不確実なことが多いことや、先の読めないこと、見通しの立たないことによって不安やストレスが大きくなりやすいと考えられます。そして、過剰な情報への暴露や先々のことを考え過ぎることは、日々の生活においてあまり役に立たず、ますます不安を大きくさせることにつながります。したがってこうした行動は控えるとともに、まずは今自分が取り組めることに目を向けていきましょう。

次回は、不安への具体的な対処法やリラックス法をご紹介したいと思います。

 

 

[参考資料]

IASC(2020)新型コロナウイルス流行時のこころのケア Version 1.5

https://interagencystandingcommittee.org/system/files/2020-03/IASC%20Interim%20Briefing%20Note%20on%20COVID-19%20Outbreak%20Readiness%20and%20Response%20Operations%20-%20MHPSS%20%28Japanese%29.pdf

 

東京大学相談支援研究開発センター(2020)学生の皆さまへ~新型コロナウイルス感染症に関連する対応について~

http://dcs.adm.u-tokyo.ac.jp/scc/wp-content/uploads/2020/04/COVID-19_student_20200402.pdf

 

谷 真美華(たに まみか)

東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース博士課程在籍中。滋賀県出身。2020年4月から法学部学習相談室に心理カウンセラーとして勤務(木曜担当)。「自分らしく働くこと」や「感情労働」をテーマに研究している。修士論文は「感情労働における『自分らしさ感』の機能の研究―サービス職のメンタルヘルス支援に向けて―」。