東京大学大学院法学政治学研究科・法学部

(コラム59)新型コロナウイルス流行時におけるこころのケア Part4

学習相談室

新型コロナウイルス流行時におけるこころのケア Part4

学習相談室 心理カウンセラー・谷 真美華

 

こんにちは。学習相談室心理カウンセラーの谷です。

早いものでもう5月も半ばですね。都内の新型コロナウイルス新規感染者数は減少してきましたが、今後社会活動に対する規制はどうなっていくのか等、先の見えない状況はまだ少し続きそうですね。

さて、今回は、「イライラした時の対処法」についてご紹介したいと思います。これまでもお話ししてきたように、現在のイレギュラーな事態はかなりストレスフルな状況であるため、不安で落ち着かない気持ちや、イライラした気持ちになっている方も多いのではないでしょうか。

ドラッグストアの店員への暴力的な言動、家庭でのDVの増加、感染者や医療従事者の方への心無い態度などをニュースで目にすることもあります。こういった深刻なものではなくても、日々の生活の中で、些細なことでイラっとしてつい相手に強い言葉を投げかけてしまったり、むしゃくしゃして物にあたってしまったり、ということはないでしょうか。

 

ストレスフルな現状では、視野狭窄が起こりやすく、物事を柔軟に考えることが難しくなることを踏まえると、こうした行動につながることは仕方のないことではあります。しかし一方で、こうした行動が、誰にとってもプラスになることはほとんどないでしょう。

では、自分が些細なことでイラっとした時はどうすればいいのでしょうか。

 

<日常のイライラ>

なぜイライラしているのか理解する

「なぜかイライラしている…」と自分の怒りの原因や心の状態が分からないためにもやもやしていることもあると思います。まずは、自分がどうしてイラっとしているのか、どんな気持ちでいるのかを紙に書きだしたりして整理してみましょう

 

怒りの性質を見極める

①とも通じる部分がありますが、今の自分の怒り・イライラした気持ちはどういうものなのか見極めましょう。

怒りの性質に、「伝染しやすい」というものがあります。ワイドショーやSNS、ネット上のニュース等を見て、怒っている人や感情的になっている人を目にすることで、それがあなたに伝染している可能性もあります。自分の怒りなのか、伝染した怒りなのか、一度考えてみましょう

 

「べき」を緩める

人は、「~べき」という自分の理想と現実にギャップがある場合、あるいは「~べき」が裏切られた場合にイラっとしやすくなります。もちろん自分の理想や価値観は大事ですが、自分を追い込みすぎるようなもの(「毎日さぼらず規則正しい生活をするべき」)などは、必ずしも自分や他人にプラスになっているとは言えないことがあるため、見直してみることも必要です。

たまには自分の「べき」を緩めてみる(「のんびり過ごす日があってもいいかもしれない」など)と、結果として無駄に怒らなくて済むこともあるでしょう。

 

 

次は、対人場面においてイラっとした時のコミュニケーションのコツです。

<対人場面>

とりあえず一呼吸置く

一度イラっとすると余裕がなくなって冷静になりにくくなります。そのままの勢いで相手に何かを伝えようとすると、つい強い言い方になってしまいます。

相手に何か言う前に、深呼吸して1から10まで数えるようにしましょう。そうすることで、かっとなった気持ちから距離をとり、落ち着くことができます。

 

主語を「私(I)」にする

イラっとした時、「なんで(あなたは)こうしてくれないの!」のような言い方になっていませんか?受け取る側の立場に立ってみると、一方的に言われているような感じがしませんか?

主語を私(I)にして、「私はあなたにこうしてもらえればうれしいな」のような言い方にすると、自分の気持ちをはっきりと、かつ柔らかい感じで相手に伝えることが出来ます。

 

「どうして」は後回しに

もし自分が、「どうしてそんなこと言うの」と、最初に相手から「どうして」と尋ねられたら、責められているような気持ちになりませんか?こちらの事情をあまり冷静に聞いてもらえそうになく、話しにくいような状況に感じられることと思います。

「そんなことを言ったのはどうして?」と「どうして」を最後につけるとどうでしょうか。最初の言い方をされた時より、責められている感じが薄れ、自分の話を聞いてもらえそうな感じがすると思います。

 

ゆっくりと話す

④と通ずるところもありますが、イラっとするとその勢いから早口になりやすく、そして早口になると強い言い方になりやすくなります。そして、こちらが早口になると、相手も早口になってどんどん状況が悪化してしまいます。

いつもよりゆっくりと相手に伝えることを意識してみてください。そうすることで、自分の言いたいことがよく伝わり、相手もゆっくりした口調に同調して落ち着いた気持ちになりやすくなります。

 

今回ご紹介したようなコミュニケーションのコツ(④~⑦)は「アサーション」に基づいています。アサーションとは、自分も他人も尊重するコミュニケーションのことです。アサーションは、イレギュラーな現状に限らず、普段の生活でも役立つものですので、対人関係で上手くいかないなと思った時などに思い出してもらえればと思います。

また、アサーションと今回ご紹介したコツについては、参考サイトの方に詳しく解説が記載されていますので、そちらもあわせてご参照ください。

 

 

たくさんご紹介しましたが、①~⑦のすべてを実践しなければならないということはありません。自分で取り入れられそうなものを、少しでも試してみてもらえればと思います。

 

[参考資料]

一般社団法人日本産業カウンセラー協会「怒りの感情と上手に付き合うためのアンガーマネジメント」

https://www.counselor.or.jp/covid19/covid19column9/tabid/515/Default.aspx

 

竹田伸也「非常時をアサーティブに暮らす」(臨床心理マガジンiNEXTより)

https://note.com/inext/n/nf831b270d38b?magazine_key=m8c4ab6dfa503

 

竹田伸也「ストレスフリーのコミュニケーション『ハッキリン』を育てよう」

https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/267358/04406d350a42d49d3c66bb7969b4ea71?frame_id=388979