まだ暑さは残るものの,少しづつ秋めいてきました。夏の様々な活動を終えて,秋学期以降の生活の準備を始めておられる時期でしょうか。夏の疲れも出る頃ですが,仕事の意味や価値観など,大きなテーマに向き合う機会も多いのではないでしょうか。
ここではフランクル心理学における「人生の意味」をご紹介してみます。ヴィクトール・フランクルは,ユダヤ人収容所に収容されながらも,過酷な状況下で精神を保って生き抜いた精神科医としてご存じの方も多いかもしれません。
フランクル心理学では,私たちが「自分が生きる意味ってあるのか,ないのか…?」と,問うまでもなく,「どんな人にも生きる意味はある」とします。一人ひとりに「なすべきこと・充たすべき意味」が与えられおり,その「何か」は私たちによって発見され実現されるのを「待っている」といいます。自分はただ放っておかれている存在ではなく,この先何かが誰かが,自分を待ってくれていると思えたら,少し力が出ませんか? そして,この充たすべき意味を知って,それに応えていくことで心が満たされ癒されていくとされます。その際には3つの価値領域を意識することがヒントとなります。
- 創造価値:自身の活動を通して,何かを創造することで実現する価値。作り出す価値。
- 体験価値:体験すること,自然や芸術の美しさを享受したり,人を愛することによって実現する価値。与えられる,受け取る価値。
- 態度価値:事実や体験が逃れられないものであるとき,それをどう受け入れるか,どう捉えるか,その中でどういう態度を取るかによって実現する価値。
学業や進路選択はまさに創造価値を見出すことではないでしょうか。自分に与えられた特性や強みは何なのか,どんな学問,業種,仕事の中でより活かせるのかを発見し,応えていく過程のように思います。でも,忙しさの中で,頑張りたくても頑張れない,創造価値を満たせない時期もあるかもしれません。あるいは,創造価値として見出した進路,結果が得られず,絶望的に感じる時があるかもしれません。 そんなときは体験価値や態度価値にも目を向けることが大事に思えます。
2つ目の体験価値では,感覚や感情自体を受け取って味わうことを価値とします。好きなことを,心から楽しんでいますか? 罪悪感や気がかりがあると,なかなか思い切って楽しめないですよね。そんなときは「これも立派な生きる価値!」と考えてみませんか。直接何かの役に立たなくても,体験自体が価値ならば,少しの間でも思い切って楽しんでみてはいかがですか。
3つ目が態度価値です。現実が変えられない時,実現まで遠い時,その状況下でどんな態度を取るでしょうか。自己否定や,悲観的な考えに飲まれると,どんどんと希望が失われ,やる気がでなくなったり,自暴自棄になったり…。 しかし,どんな状況でも,私たちの態度は自由であり,選ぶことができるといいます。人間は環境の影響を受けるしかない無力な存在ではなく,環境がどうあっても態度は自由というのは,逆説的ですが,一つの支えにもなるかもしれません。
「苦しくて,やる気が起きない」「不安が大きくて,勉強が手につかない」というときは,ぜひご相談にいらしてください。状況を違った角度から捉えられないか,今できることはないか,気持ちとどう折り合いをつけていけるのか,ぜひ一緒に考えていければと思います。
参考:ヴィクトール・E,フランクル(著)山田邦男・松田美佳(翻訳)『それでも人生にイエスと言う』/ 舟木彩乃『首尾一貫感覚で逆境に強い自分をつくる方法』
(文責:高堰)