東京大学大学院法学政治学研究科・法学部

コラム17:自己表現能力・コミュニケーション能力とは?

学習相談室

コラム17:自己表現能力・コミュニケーション能力とは?

最近、社会で求められている能力として自己表現能力やコミュニケーション能力といった能力が挙げられているのをあちこちで耳にします。表現やコミュニケーションは「何をどう伝えたか」という問題も大切ですが、言葉のやりとりが伝える自分と伝えられる相手との間の関係性の上に成り立っている、ということも非常に重要な点です。

 

こうした点から自己表現やコミュニケーションを考える概念として心理学の領域では「アサーション」という概念があります。アサーションとは端的に言えば「相手も自分も大切にした自己表現」のことです。この概念の源流はフェミニスト運動などに遡りますが、キャリア・カウンセリングの領域でも注目され、就職・転職・キャリアアップなどの大切な能力として考えられてきました。

 

アサーションとは、お互い意見が違うことを前提にして、相手を尊重しながら、けれども安易に妥協せず互いに意見を出し合って、納得のいく結論を出していくプロセスを大切にします。自分が表現するのと同時に、相手が表現するのも尊重していきます。だから「聴く」ということも大切になります。つまり、自分の理屈を理路整然と並べたて相手を黙らせることとは違うのです。実際に世間では様々な考えの人が、様々な希望を持って生活しています。いくら理論的に整合性が高く立派に見える意見でも、すべての人が納得するという事態は現実にはほとんどあり得ないことです。

 

しかし、自分がアサーティブかどうかを自己判断するのはなかなか難しいかもしれません。そんなときには逆から考えて、アサーティブではない2つの自己表現の仕方を自分がしてないかチェックしてみてください。まず一つ目は「アグレッシブ」な自己主張です。これは相手を支配し、優位に立とうとしたり、相手に自分の思い通りになってほしいと思って行うような自己主張です。自分の意見や考え権利ははっきりと主張しますが、相手の意見や気持ちを軽視した表現です。つまり、自分だけ大切で、相手を尊重しないコミュニケーションですね。

 

もう一つの自己表現の形は「ノン・アサーティブ」な自己表現です。これは相手の気持ちばかりを大切にしたり、人の意見を気にするばかりに、自分を犠牲にしているような自己表現です。自分の意見や気持ちを表現しなかったり、言い訳がましくいったり、あるいは遠回しにいったり。こうした形で率直に相手に伝わらない方法で自己表現をすることがノン・アサーティブな表現です。相手に気を遣っているようではあるけれど、実のところ相手にも率直ではなく、自分にも正直でない表現の仕方です。こうした表現は一見良いように見えますが、実のところ本人にストレスをためたり。相手から理解されていない、自分は孤独だ、といった考えにもつながってきます。

 

さて、自分の自己表現はどれに近いと思いますか。アグレッシブな自己表現は実際に周囲の人が自分から離れていく結果を招くかもしれないし、ノン・アサーティブな表現を続ければ自分から周囲に壁を作り孤独感を強めていくことになるかもしれません。適切な表現をして、人とのつながりを大切にしながら自分も気持ちよく生きていける、これが自己表現やコミュニケーション能力の基本ではないでしょうか。

 

(文責:鈴木)