研究科長・学部長挨拶
人間の社会で生じるさまざまな問題は、どのように解決されているのでしょうか。また、どのように解決されるべきでしょうか。そして、問題を解決するために、社会はどのようにして、またどのような考え方によって成り立っているのでしょうか。法学・政治学は、こうしたテーマを探究する学問です。自由な個人から、家族関係、さまざまな取引関係、企業その他のさまざまな目的をもつ団体、市場をはじめとする社会システム、「公共」圏、自治体、国、国際関係・グローバル関係といった多元的で多層的な社会を成り立たせることは、決して単純にできる営為ではありません。こうした社会を理解し批判的に分析することも、また同じです。
私たちが社会で解決を迫られている問題も、複雑多岐にわたります。SDGs、Society 5.0、グローバル化、リスク社会等の標語に示される現代社会の諸課題は、2020年以降のパンデミックによりいっそう浮き彫りになりました。
東京大学大学院法学政治学研究科・法学部(以下、本研究科・学部といいます)の教授・准教授は、80名を超え、専門分野も多彩です。そして、法学・政治学の広範な領域において、社会の諸問題、社会の成り立ちと社会を成り立たせる考え方に取り組むための最高水準の研究教育を行っています。すなわち、一方で、本研究科・学部の教員は、各種の公的機関や研究会等の場で、法曹、官公庁、NGO、企業、メディア等、各界の実務家とともに、社会の諸課題に第一線で取り組んでいます。他方で、現代社会の諸課題に取り組むためにこそ、特に思いがけない課題にぶつかった時にこそ、基本的な考え方に立ち返ること、さらに、基本的な考え方を含めて、歴史や国際比較の中で批判的に反省することが必要になります。本研究科・学部は、基礎分野における研究の広さと深さを誇り、また、法制史・政治史、比較法・比較政治等の分野について、研究を重ねている教員を擁します。そして、以上のような研究や活動が、講義や演習に生かされています。
遡れば、東京大学法学部は、1873年(明治6年)に法学科が置かれた東京開成学校と東京医学校との合併により、1877年(明治10年)に東京大学が創設された際に、設置されました。わが国で最も由緒ある学部の一つです。創設以来、わが国における法学・政治学の研究教育の中核となり、各界に多くの優れた人材を輩出してきました。伝統を継承し研究教育のための資源を蓄積した施設として、本研究科・学部には、「法学部研究室図書室」、「明治新聞雑誌文庫」等が設けられています。前者は、海外から来訪する研究者も驚嘆する国内外の図書・雑誌のコレクションを誇り、後者は、明治・大正期の日本で刊行された新聞・雑誌の国内最大のコレクションを保有します。しかし、伝統は、日々書き換える努力を払わなければ、その名に値しません。現在の本研究科・学部の取組みから、2つだけ挙げましょう。
まず、東京大学が全学で展開する「国際卓越大学院教育プログラム(WINGS)」の一つとして、本研究科を中心に2017年に開始され、2019年に文部科学省の卓越大学院プログラムにも採択された「先端ビジネスロー国際卓越大学院プログラム」が挙げられます。これは、急速に蓄積ないし発展している情報・知識・技術が、社会において適切な形で活用されるように、広義のビジネスローの分野において、これらの蓄積・発展に伴い生じる法的・政治的諸問題に取り組む研究教育プログラムです。このプログラムは、本研究科・学部が、日本で最高峰の研究教育を展開する総合大学としての東京大学の一部局であることを生かして、理系研究科と連携し、また、法律実務に関わる企業や機関との連携の輪も広げて実施されています。本研究科・学部の研究教育の場を、学際的・社会的にさらに広げ、豊かにするプロジェクトです。
もう一つ、学部教育の国際化が挙げられます。本学部は、2017年に学部カリキュラムを改めた際に、外国語で行われ、または外国語の文献を用いて行われる講義・演習を、「外国語科目」という科目群として拡充しました。第1類(法学総合コース)では、外国語科目の履修が卒業要件とされます。他の授業でも、海外から招聘された教員が外国語で講演を行う等の機会を増やしています。本学部の学生が海外留学することを容易にするために、留学先で取得した単位を卒業単位に算入するなどの制度も設けられています。さらに、本研究科・学部における外国籍の教授・准教授も徐々に増えており、現在4人を数えます。加えて、特任教授・特任准教授として、4人の外国籍の教員が授業を担当しています(いずれも2022年4月1日現在)。
今後も本研究科・学部は、法学・政治学の広い領域にわたる基盤的な研究教育と、社会的・学際的・国際的な連携とを、循環し発展させるように努めてまいります。
東京大学大学院法学政治学研究科長・法学部長
山本 隆司