東京大学大学院法学政治学研究科・法学部

2021年サマースクールレポート その1

法曹養成専攻

2021年サマースクールレポート その1

2021年度サマースクールについて

 

法曹養成専攻長 畑 瑞穂

 

 

東京大学法科大学院は、国際的に活躍できる法律家の育成を目標の1つとしている。その目標に向けたプロジェクトのひとつがサマースクールであり、法科大学院を開設した2004年以来、毎年開催してきた。昨年はコロナ禍により初めての中止を余儀なくされたが、17回目である2021年度は、これまでのように合宿形式を採ることはできなかったものの、できる限りの工夫を凝らしたオンライン形式により開催した。

 

参加者は、東京大学法科大学院の学生18名、総合法政専攻の学生2名、法学部の学生9名、北京大学、ソウル大学及びシンガポール大学の学生計9名、企業法務部や法律事務所に勤務する専門職業人15名の計53名である。講師は、アメリカ、ヨーロッパ及びアジアの著名な大学教授や弁護士6名をお招きした。授業のテーマは年度によって異なるが、今年度は、「Global Trends in Competition Law & Politics」とし、それぞれの諸国における最新の動向を踏まえて、様々な角度から重要課題を取り上げた授業をしていただいた。

 

参加者は、7月末までに10コマをオンデマンド型で視聴の上、8月9日(月・祝)・10日(火)の両日にリアルタイム型で3コマ実施される集中講義に参加した。最初の3コマ(Introductory classes)では、国際的な競争法制の頂点に立つ米国反トラスト法(Antitrust law)および欧州コンペティション法(Competition law)の概要を理解することに主目的が置かれ、導入的説明がなされるとともに基本的な事例を使用して競争法的な考え方やアプローチの仕方が履修生にインプットされた。次の3コマ(European classes)では、欧州競争法の下での国際的カルテルに関する法の域外適用、独占的地位の濫用といった最重要課題について、理論と実務の両面から詳細な解説が行われたほか、最新のテーマとして、ポストCovid-19時代の経済回復期における競争法のあり方やEUにおける様々な対応措置について、現役のEU政策担当官により解説された。次の4コマ(US Classes)は、競争法の原点ともいえる米国Sherman ActやClayton Actを題材に、競争とは何か、法制度の仕組み、執行の仕組み、これらの歴史的変遷について説明されたのち、基本条文であるSherman Act 1条の違法な合意についての詳細な解説が行われた。更に、現代における事業展開の中心的な手段であるMerger and Acquisition(合併・買収)に関する動向や最新の課題や、反競争的な性質を持ち、特にGAFAに見られるような従来にないMonopolization(独占)の弊害や問題点、競争法上の取扱いなどについて、実際の事例や仮想事例などを検討しながら、詳細な解説が行われた。最後の3コマ(Discussion sessions)は、EU ClassesおよびUS Classesの録画視聴や文献購読を踏まえて、それらの内容を更に深め、履修者に確固たる知見として固着させることを目的とし、本学の専任教員と学生の双方向的な議論を中心として実施された。授業は全て英語で行われた。

 

以上の通り、今回のサマースクールの内容は、遠隔授業であったにもかかわらず非常に完成度の高い充実した内容となり、参加した日本の競争法を所管する公正取引委員会の職員、競争法を専門とする弁護士や実務に携わる社会人にとっても、多くの収穫が得られたと評価できる。学生にとっても、今の日本において望むことができる最高レベルの導入的学習の機会であったといえよう。

 

サマースクールは、東京大学法科大学院の学生にとって、世界が広く多様であることを知る何よりの機会であると同時に、外国からの学生や専門的職業人の方々に、東京大学法科大学院を知っていただく貴重な機会でもある。法科大学院は、様々な問題に直面しており、その解決が迫られているが、東京大学法科大学院としては、今後も、広く長期的な視野から、このサマースクールを大事にしていきたいと考えている。なお、2019年度から、法学部教育の国際化の一環としてサマースクールを法学部の学生にも開放したが、上記のとおり、9名の参加者を得た。サマースクールが、今後とも、法科大学院・法学部の学生が国際的な問題について、共に学び、考える機会となることを強く期待するとともに、来年度はコロナ禍も収まり、従来のような、豊かな自然に囲まれた環境にある充実した施設での合宿形式を復活させ、学生が、外国人教員・学生、社会人との対面による有意義な交流の機会を得られることができるように祈念する次第である。

 

最後に、サマースクールは大規模なプロジェクトであり、多方面の方々のご厚意・ご尽力があってはじめて成り立っている。この場を借りて、お世話になっている全ての皆様に厚く御礼を申し上げたい。