東京大学大学院法学政治学研究科・法学部

2022年サマースクールレポート その1

法曹養成専攻

2022年度サマースクールについて

 

法曹養成専攻長 畑 瑞穂

 

 

東京大学法科大学院は、国際的に活躍できる法律家の育成を目標の1つとしている。その目標に向けたプロジェクトのひとつがサマースクールであり、法科大学院を開設した2004年以来、毎年開催してきた。2020年度はコロナ禍により初めて中止を余儀なくされたが、昨年度はできる限りの工夫を凝らしたオンライン形式により開催し、18回目である本年度は、可能な限りの感染対策を施した上で学内における対面形式により開催した。

 

参加者は、東京大学法科大学院の学生20名、総合法政専攻の学生5名、法学部の学生5名、北京大学及びソウル大学の学生計4名、企業法務部や法律事務所に勤務する専門職業人6名の計40名である。講師は、本研究科助教時代から本サマースクールの運営に関わって来られた神戸大学法学研究科の板持研吾准教授(専門:英米法)のほか、アメリカ及びオーストラリアの著名な大学教授6名をお招きした。

 

授業のテーマは年度によって異なるが、今年度は、「Introduction to U.S. Law」とし、各講師の専門分野における最新の動向も踏まえて、様々な角度から重要課題を取り上げた授業をしていただいた。参加者は20名ずつ2クラスに分かれ、初日・8月11日(木・山の日)から、早速、板持准教授による授業を皮切りに2コマ、翌日からは毎日原則として3コマ、合計13コマの授業を受講した。最終日の8月16日(火)の午前10時から午後1時までが試験である。問題は、外国教授1名につき1題が英語で出題され、英語で解答するものであり、これに合格すると2単位が認定される。幸いにして今年度も、参加した法科大学院生全員が試験に合格し、単位認定を受けた。

 

授業は、『基礎から学べるアメリカ法』(2020年、弘文堂)の共著者である板持准教授によるアメリカ法の全体像を鳥瞰するOverviewのほか、合衆国憲法の制定経緯や意義に焦点をおいたもの、米国法人税制の基本的な考え方や税制規律について鳥瞰的に示すもの、国際的な贈収賄事件やホワイトカラークライムへの対応の法的枠組みや課題を考えるもの、連邦制度下における規制ルールの在り方や制度設計について社会的な観点まで深掘りしつつ考察するもの、米国の民事訴訟制度について、理論と実務の双方から条約の運用状況や主な論点を検討するもの、米国統一商事法典第9編(担保制度)および新たに追加された第12編(デジタル資産の財産権)の骨格と基本となる考え方を説くものなど、それらの内容は極めて多岐に亘り、世界の潮流の先頭に立って変容し、良くも悪くも時代的課題を示し続ける米国法の、まさに最新の動向を、すべて英語により双方向で学べるという大変充実した内容となった。学生にとっては、今の日本において望むことができる最高レベルの入門学習の機会であったといえ、また参加した弁護士や実務に携わる社会人にとっても、多くの収穫が得られたと評価できる。なお、海外からの参加者を対象にサマースクールの一環として開催してきたが、コロナ禍の影響で一時中断を余儀なくされてきた日本法講義(Introduction to Japanese Law)も、今回、本研究科のCarol Lawson准教授を講師としてオンライン形式により復活した。

 

以上の通り、今回のサマースクールは、本来の合宿形式こそ取れなかったとはいえ、2018年度と同様に充実したものとなった。合宿形式であれば、食事の際や休憩時間、夕刻や夜の時間など、参加者がグループで討論したり、講師の先生方を囲んで議論したりする姿がしばしば見られる。これもサマースクールならではの大切な機会であるが、今回は学内開催で宿泊を伴わず、食事も昼食のみで、かつ黙食とせざるをえなかった。そこで、講師との交流の機会を確保すべく、新たな試みとしてオフィスアワーを設けた。短い時間ではあるが、ほぼ毎日、講師や社会人の方々と英語で熱心に議論し、時に談笑する学生の姿が多く見られ、実に印象的であった。

 

サマースクールは、東京大学法科大学院の学生にとって、世界が広く多様であることを知る何よりの機会であると同時に、外国からの学生や専門的職業人の方々に、東京大学法科大学院を知っていただく貴重な機会でもある。法科大学院は、様々な問題に直面しており、その解決が迫られているが、東京大学法科大学院としては、今後も、広く長期的な視野から、このサマースクールを大事にしていきたいと考えている。なお、2019年度から、法学部教育の国際化の一環としてサマースクールを法学部の学生にも開放したが、上記のとおり、今回も5名の有為の参加者を得た。サマースクールが、今後とも、大学院・法学部の学生が国際的な問題について、共に学び、考える機会となることを強く期待するとともに、来年度はコロナ禍も収まり、従来のような、豊かな自然に囲まれた環境にある充実した施設での合宿形式を復活させ、学生が、外国人教員・学生、社会人との、対面による有意義な交流の機会を得られることができるように祈念する次第である。

 

最後に、サマースクールは大規模なプロジェクトであり、多方面の方々のご厚意・ご尽力があってはじめて成り立っている。招聘に快く応じ、遠方から東京までいらして下さった講師の方々、今年も優れた学生を参加させて下さった北京大学及びソウル大学、ご多用のなか貴重な時間をサマースクールに費やして下さった社会人の方々、財政面から支えて下さっている方々… お世話になっている全ての皆様に厚く御礼を申し上げたい。また、今回は、学生が毎日大学に通い、長時間にわたって教室で受講する対面方式にもかかわらず、1人のコロナ感染者も出さずに終了することができた。この場を借りて、企画段階から万全の態勢作り、実施運営に奔走頂いた、教育支援室やビジネスロー・比較法政研究センター始め本学の事務スタッフにも深く感謝する次第である。