東京大学大学院法学政治学研究科・法学部

2022年サマースクールレポート その2

法曹養成専攻

2022年度サマースクールレポート

 

法科大学院3年4組 内田希

 

 

僭越ながら自分のバックグラウンドに触れさせてもらえば、私は米国でコロンビア大学を卒業し、東京大学ロースクールに未修生として入学した。入学前から東大ロースクールが国際的に活躍できる法律家の育成を大きな目標として掲げ、様々なプロジェクトを擁していることを魅力に感じていたので、その中でも中心的なサマースクールに参加しないことは考えていなかった。ただし、2022年のテーマは”Introduction to U.S. Law”だったので、私は――法律を学んでいた訳では無いが、米国での教育のバックグラウンドを持つ者として――授業で触れられる基本的なトピックはある程度理解しているはずだから、他のテーマの年度よりは学べることが少ないかもしれない、と思っていた。しかし、現実はまったくそうではなく、最初から最後まで、非常に面白いプログラムだった。

その面白さの根源は、生きた米国法が学べたこと、にあるのではないかと思う。以上のような目標から、東大ロースクールには英語で行われる国際的な法律科目が幾つもあるものの、日本で活躍する先生方にご講義いただく、という形での授業が多い。しかし、今回ご講義頂いた六名の先生方はみな海外で教鞭を執り、刻々と変化する「現在」の政治状況を生きている方々であり、授業内容もそれを色濃く反映したものであった。たとえば、トランプ政権下の米法人税一律引き下げを前提とした租税法のビジネスへの影響、サマースクールの一ヶ月前に米連邦最高裁の出した環境保護局の規制権限を制限する判決を踏まえた連邦主義の限界、現在まさに行われているUCCのデジタル・アセットに関わる改正の内容等、最新の米国法を学ぶ扉を開いて頂いたような気持ちだった。また、ほんの数ヶ月前にロー対ウェイド判決が覆されたこともあり、連邦最高裁のあり方についてはどの先生方も何かしら意見があり、また生徒たちも現在の米国アカデミアの反応について大いに興味があるようで、ディスカッションも非常に盛り上がった。

その中でも私が特に感銘を受けたのは、インディアナ大学のホフマン教授が指摘した、昨年のVan Buren v. United States判決の問題点である。恥ずかしながらこの判決については、その結論が妥当である程度の感想しか抱いていなかったのだが、先生はそれを導き出した過程における司法条文主義に着目し、条文の通常の意味に着目するのでは、その背後にある最高裁の法的思想が分からず、先例になりえない、とお話された。判例法の世界である米国法において、「先例としての価値」に着目することの重要性を、私はこの授業で初めて実感できたように思う。

また、休み時間やその日の授業の後、分からなかった所を皆で突き合わせ話し合うのも、このプログラムの大きな醍醐味だった。合宿形式のように夜に皆で集まってという訳には行かなかったが、それでもクラスメートと同じ空気を共有することによって学びを深めることはできたし、また、他生徒の質問に答えようとする中で、自分の知識不足も自覚させられた。特に、連邦主義における連邦裁判所と州裁判所、管轄と両裁判所の交差については、自分でもあまり意識せずに過ごしていたことに気付かされた。しかし、そこはオフィスアワーの開催があり、諸先生方が放課後に残って下さっていたから、そこに生徒たちで押しかけて、色々な質問に答えて頂いた。

そして、クラスメートと知り合い、お互いのバックグラウンド――留学生もいれば社会人もおり、英語のレベルも様々である――を知る中で、このサマープログラムは本当にどのような生徒でも学びのある場だと思い知らされた。来年以降はまた合宿形式で開催されることを祈りつつ、学びを望む誰にでも参加を薦められるプログラムであると思う。そして、今年は私にとってロースクール生として最後の年だが、対面式で開催できたことに、本当に感謝の気持ちで一杯である。